
ブエノスアイレスを訪れた時に出会ったカメラだ。街中でスナップをするのに使えるカメラがないかと中古カメラを探しているときに見つけたものだ。nFM2は砂漠やジャングルの中で使うのには問題はないけれど、ちょっと治安の悪い街だと目立ちすぎる事もあった。バルナック型の頂点ともいわれるこのIIIfはあまりに美しく、スナップ用という当初の目的に合っているかどうかなんてもうどうでもよくなり、殆ど一目惚れのような状態で入手した。
ズミクロンの5cmとM型用のMCメーターも一緒に入手したのだけれど、レンズの状態があまりよくなかったのでその旅では本当に気楽なスナップ用以上には使えなかったが、それでも嬉しくて毎日鞄の中に入れて出歩いていた。その後90mmエルマーやビドムファインダーなんかも手に入れてたまに持ち出して使っている。まだちゃんと整備していないのでその実力は確かめていないけれど、近く生き返らせてあげたいと思っている。
その夏はペルーで発掘調査に参加した。現場に遺物の撮影に来られていたプロカメラマンの方が僕のIIIfを見て、ちょっと嫌な顔をして”何、君は写真が好きなの?カメラが好きなの?”と言われたのをまだ覚えている。当時僕はライカと言えば”ドイツの職人の手によるとんでもなく素晴らしいカメラ”という程度の認識しかなく、だからこそ古くてもすばらしい描写をしてくれるだろう、整備して長く使えるだろうという程度に考えていた。だがライカファンにはコレクターも多く(フィルムをカメラに入れる事の無いような)、そういった印象を与えたのかもしれない。もちろんカメラにはコレクションアイテムとしても魅力はあるし、そんな事は個人の趣味の問題でどっちでもいいじゃないかと思うんだけど、仕事道具としてカメラを扱う写真家とはお互い不可侵の領域に存在しているのだろうか。