
日本で煙草が一箱1000円になるかもしれないという話。すでにNYあたりじゃ$10くらいするし、ボストンでは$6前後だろうか。僕が渡米した頃は$1.5だったから随分と上がったものだ。もともと嗜好品だし、”これから煙草は高級嗜好品という事で、厳選された上級葉のみ販売、1000円”というならまあ納得できるけど、税金が上がるだけってのは無粋な話だ。そんなに払うのなら、ダビドフのシガリロあたりを日常品として楽しめてしまう。すでにボストン市内のバーやレストランでは喫煙可の店は殆どなくなって(シガーバーなど特別な店は可)、自室でしか飲めない。こうなるとお手軽な紙巻きである必要はないわけで、ゆっくりとシガーやパイプを楽しんだほうがいいかもしれない。
僕は普段から煙草を嗜むわけではないけれど、やっかいな仕事があったり、厳しい環境の調査現場に行く時には煙草を仕入れていったりもする。ちょっと特別な日に、ちょっと贅沢をしてダビドフとアイラモルトなんぞを手に入れて、友人達と集まるととても楽しい時間を過ごす事ができる。もちろん、煙を好まない人やスポーツ選手がその場にいる時には別室で吸っているけれど。
初めてヨーロッパにパッカーの旅に出た頃の写真をみるとテーブルの上にジタンの箱が置いてあったりするので、どうやらその頃には小銭を煙にしてしまう事を覚えたようだ。バス待ちの時間や、何をするでもなくカフェに陣取って通りなどを眺めている時に手許でライターを弄びながら煙を眺めているのは心地よいものだし、一人旅でカフェやバーに入るのは行為としての食事や飲酒に専念してしまい、せかせかしたものになってしまうが、煙を燻らせているとその場を楽しむ余裕を与えてくれる。テーブルの上に置いてあるそれはゴロワーズやデュカドスに変わったり、ハミルトンやプリミエルに変わったりし、訪れる土地土地で変わる味を比べる楽しみもある。フェンシングやムエタイの練習に打ち込んでいる時期にはさすがに肺が不健康だと痛い目にあうので止めてみたり、また厳しい調査現場に行く時にはまた手を出したり、となる。
喫煙具はいつもポケットの中にその感触を感じて一日に何度も手に取るので、喫煙具を選ぶのは腕時計を選ぶのに似た楽しみがある。普段よく使っているのはジッポやイムコなどのオイルライターだが、これは大戦中のダンヒルのサービスライター。イムコのトレンチライターによく似ているが、これは米国製で同じ頃に兵士向けに生産されたもののようだ。ライフルの薬莢のような型のインナーにオイルをしみ込ませた綿とウィックが入り、ブリキの板で石を巻き込んである。シンプル極まりないものだが、それだけに作られて何十年もたってもちゃんと火をつけてくれる。大戦に参加した兵士が持ち帰った物か、ウィスコンシン州の田舎の街のアンティークショップのがらくたの箱の中に錆だらけで転がっていた。ダンヒルの名を冠したこのライターは日本のアンティークショップなどへ行くとガラスケースの中に鎮座していたりちょっとした扱いを受けているモノだが、店主は錆だらけのそれに大した興味も無かったようで、値段は煙草一箱よりも安かった。それがダンヒルのものであるか知っているかさえ怪しかったが。その店に立ち寄ったのは大雪の日で、他に客はいなかった事もあり、そのまま作業場の隅っこと道具を借りて錆を落としたりしてどうにか動くようにしたもの。キャンプで焚き火をする事もある調査旅行などでは、より確実なジッポを持って行くので、これはもっぱら部屋の中で使うことにしている。