サコッシュ

前回紹介したサコッシュというものには少し思い入れがある。自転車乗りには馴染みのあるものだけど、最近は自転車用だけでなくハイク用サコッシュというモノを見かけるようになった。先日立ち寄ったU.L.(ウルトラライト)系のアウトドアショップで見かけて、自分も似たような袋を工夫して旅していたことを思い出した。サコッシュは特別なかたちをしているわけでもないただ肩ひものついた袋だから、似たような商品はいくらでもありそうなのだが、アウトドアギアとしては商品化されたものはあまり無かったように思う。少なくとも僕がバックパックを背負って南米をほっつき歩いていた90年代には、商品として見た記憶はない。
パッカー達はその名の通りバックパックを使うひとが多く、僕もノースフェイスの80Lほどのモデルを愛用していた。しかしバックパックはもともとマウンテニアリングの道具として設計されたモノであって、貧乏旅行用に作られたものではない。旅の目的にもよるが、トレイルに出るときは最高だが、ヒッチハイクやローカルバスで街からまちへ移動するような旅では、不便に感じることもある。とくに困ったのが小物の管理だった。マウンテニアリング用につくり込まれているモデルだと、カメラや財布、ロンプラなどをちょくちょくひっぱり出すことなど想定していない。ヘッドコンパートメントから小物を取り出すためにはザックを降ろさなきゃいけないが、それだけで一苦労だ。またバスターミナルで荷物を預けるときには貴重品をデイパックに移し替えてバスに乗り込むのだけど、旅人を狙う連中であふれているターミナルで荷物を開けて持ち物を晒すのはすすんでカモになるようなものだ。
僕はバックパックと併用して、小物入れのサブバッグを首からぶら下げていた。ユースで出会うパッカーたちも似たようなスタイルで、それぞれにサブバッグを工夫していた。それは旅先で手に入れた民芸品の袋だったり、メルカドで拾ったとうもろこしの袋だったり、仕分け用の防水袋に紐を縫いつけたような自作の袋だったりした。僕はラパスでみつけたアンティーク布地の袋を愛用していた。ペルーのクスコからプーノ、ボリビアのラパスにかけてどこでも売っていた定番の土産袋で、この辺りをうろついていた旅人の首にはよくこの袋がぶら下がっていたかな。ちょうどサコッシュのようなカタチのただの布袋だが、シンプルなだけにどのような使い方もできた。街をぶらつくときにはこのバッグひとつででかけていた。
とても便利だったがやはりただの布袋である。防水性もないし重い。こういうシンプルなバッグを山用の軽量撥水の素材で作ったものはないものかと探してみたのだが、意外と手に入らなかった。ただのナイロンバッグならいくらでもあるが、特殊な素材でとなると扱っているメーカーも限られている。そしてグレゴリーもアークも最新の素材で高性能なデイパックを作っている。でもそれらは使用コンテクストを想定してきっちり開発されているモノであって、首からぶらさげるようなテキトウな使い方はできないのだ。ここでまた、山用の道具をパッカーが気楽に使うことの矛盾が生じてくるのだ。まあ当然なはなしで、かれらはマウンテニアリングの道具を作っているのであって、パッカーがロンプラとブリトーとデジカメを首から下げるためのバッグをつくっているわけじゃない。
最近になって、ハイカーズデポや山と道といったU.L.系のショップからこのテのサコッシュがいくつか出て来ているようだ。たしかにベースウェイトを1gでも減らしたいULハイカーなら、重いサブパックは避けたいところだろう。バックパックのハーネスと干渉しない軽量シンプルなサブバッグの型を、自転車のサコッシュにもとめたのはなるほどと思わせられた。また、特定の仕様状況を想定したバックではなく汎用性の高いシンプルなサコッシュが選ばれたのは、ハードなマウンテニアリングに限らず、いろいろなスタイル、自然の楽しみ方を許容するU.L.系ならではの発想かもしれない。そして商品化までしてしまおうといういうのは、個人のガレージショップが多いUL系のフットワークの軽さだろうか。
自分が旅していた頃、あるといいなあ、と思っていたモノを見つけて嬉しくなった。80Lのバックパックを背負って旅することはなくなったけど、調査でフィールドを歩くときにも使えそうだし、普段使いにも便利そうだ。前回手に入れたCCPのサコッシュは自転車用のものだけど、U.L.ハイク系のデザイナー達が出した答えはどのようなモノなのか、近く実物を試してみたいと思っている。

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