旅用の釣り道具

urubamba旅と釣りと
釣り狂はどの分野にもまぎれこんでいるもので、調査旅行に出かけるときには必ずスーツケースの奥にリールやら竿やらの道具を忍ばせていくという考古学者には何人も会ったことがある。
リマで仲間が集って牛ハツの串焼きなんぞを肴にワインを傾けるとき、現場近くの湖やら川やらで釣り糸を垂れてみたという話を聞く事がある。かれらが調査で入り込んでいる場所は、たいてい旅行者が足を踏み入れることがないペルーやボリビアの奥地であるから、そんな酔談もなかなかの冒険談に聞こえてくる。すると、釣りには興味は無いながらも、なにかとても面白い事をし損ねたような気になってくる。学生の頃アマゾン河下りをやってハンモックにゆられながら開高健を読み、釣り道具を持ってこなかった事をくやんだことを思い出す。つぎ来るときにはぜひ一揃え担いでこようと思う。帰国するとすぐに忘れてしまいなかなか道具も揃わないのだけど。
僕も現地の人に混じって何度か釣りのまねごとなどをやってみたことはある。道具なんて無くて、空き缶に巻きつけた糸に適当なエサをつけた針を垂れてみるだけの、間違って喰い付いてしまったおっちょこちょいな魚をたぐり上げるような釣りだ。それでも成果はその日の夕食になるわけで、少しだけ真剣になれる。現場に長期滞在していると現地の料理に飽きてくることもあるので、タカマ産の白ワインを冷やしておいて、リマで仕入れておいた日本の醤油とワサビを引っぱりだして、刺身や炭焼きで魚をいただくのはなかなかごちそうなんだ。
アマゾン川の源流がすぐそばを流れている現場ではペヘレイを釣ってみた。淡水のイワシのようなもので、かなり小さな魚だ。いちいち釣り上げていてはおかずにもならないので、村人達は網をすすめてくれた。しかしそれでは釣りというより漁になってしまうので、あくまで針糸を垂れる事にした。一匹釣れただけだったが素揚げにすると旨かった。ナスカは砂漠の街だったけど、近くに港がいくつかあって立ち寄ったことがある。船着き場で晩飯を釣っている子供達に混じって名も知れないふてぶれしい面構えの魚を何匹か釣り上げた。これは現地の友人がトマト煮込みにしてくれたのが絶品で、ワインが相当にすすんでしまった。
(写真はペヘレイを釣ったアマゾンの源流)
abu1釣り道具など
そんなわけで、日本とペルーを行き来している間に、少しずつ釣り道具を集めてみた。これから釣りを本格的に始めようというわけではなく、ただ旅先で遊べる簡単な一揃えである。釣りの事は全く分からないが、竿とリール、ルアーが何個かあれば、空き缶に巻き付けた針糸よりは大分ましだろう。この辺りから興味は急速に行為からモノに移りはじめる。
たちの悪いことに、開高健の釣行本を読んだだけの脳内フィッシャーマンなので、少々やっかいなところからリサーチが始まる。リールはアブ•アンバサダー、竿はフェンウィック、ルアーはトビー、メップス、何のことやら全く分からないアヤシイ呪文のようだが、御大の本を読み返すとこの呪文で召還したのはピラルクーとかドラドとかやはり化け物らしいので、初心者向けの道具でないことは間違いない。
とはいえ外に手がかりがないのだから仕方がない。詳しいヒトやショップに相談するのが常套手段だろうけど、動機がゆるいので相談しづらい。場所は思いつくだけでもアマゾン川、アンデス高地の湖、ペルーの太平洋岸、瀬戸内海岸。獲物は、ペヘレイ、コルビナ、アマゾンじゃいろんなナマズがいたかな。瀬戸内海じゃすずきでも釣れるのだろうか?とりとめもない話だ。これじゃあ、相談される方も困るだろう。取り敢えず応用がききそうなものを揃えてみた。
リールはともあれ御大にならってアブ•アンバサダーの2500c。ドラドを釣りに行くわけではないのでさすがに5000cはでかすぎる。ロッドはおなじくアブのホーネット。スーツケースに入るパックロッドを。ルアーはメップス•アグリア、トビーとカストマスターを数種類づつ。
さて、今住んでいるアパートから自転車で15分も下れば芦屋の海にでる。何度か練習して、なんとか投げるだけはかたちになってきた。釣り人がトビーを見て「芦屋浜ではそれじゃ絶対に何も釣れないよ。」と忠告して下さった。投げる練習なんで釣れなくても構わないんだけど、実は一度アジが釣れたことがある。ペヘレイよりも、そしてトビーよりも小さかったけど。まあ、やってみるもんだ。次に調査旅行に出かける時には、スーツケースに忍ばせて行くことにしよう。

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