
古タイヤのサンダルというと、ペルーにもオホタと呼ばれるものがある。農夫達がよく履いているもので、こちらも手作りの逸品である。田舎街のメルカドに行くと地元のおばちゃんがゴザのうえに山のように積み上げて売っている光景を目にする。ワラーチと違い革ひもではなくゴム板で足をホールドするようになっている。とんでもなく頑丈なモノで、写真は僕がクスコで10年以上前に手に入れたものだが、毎夏使っているのにまったく壊れる気配がない。
発掘を手伝ってくれる人夫さん達の間にもオホタ愛用者は多い。彼等はこのゴム板一枚で、ジャングルだろうが砂漠だろうがぐいぐいと分け入って行く。最先の技術素材がつぎ込まれたダナー社の米海兵隊仕様アケーディアをおごっている僕を追い抜いて、ぐいぐいと前進して行くのだ。ばかばかしくも、情けなくもなってくる。彼等はオホタひとつで発掘をやり、山羊を追って、サルサだって踊ってしまう。
オホタで疾走するペルー人というのはあまり見た事はないが、まあ走れない事も無いだろう。何しろカパック•ニャンを走り抜けたチャスキの子孫達だ。
ふと思い出したのがマチュピチュのグッバイ•ボーイズである。マチュピチュ遺跡を訪れた帰り、山を下るバスに乗り込むときには、きっと10歳前後の少年たち4,5人が”グッバーイ!”と叫んで手を振って見送ってくれる。なかなか可愛らしい光景で、”土産物屋の子供達かな?”とも思うのだが、ひとつカーブを曲がるといつの間にか先ほどの少年団が再び先回りして”グッバーイ!”とやってくれる。バスを追い抜いたわけでもないし、なんの魔法だと驚いてしまう。そして次のカーブ、その次と現れ、とうとう麓まで”グッバーイ!”は繰り返される。マチュピチュへの車道はつづら折りになっていて、少年達は山道をすべり降りて先回りしているのだ。ショートカットといってもバスと競っているのだから、結構なトレイルレースだ。
このちょっとしたイベントに、観光客たちはいたく感動する。5,6歳の小さなチャスキが山道から転げ出てくると、観光バスの中に歓声が上がる。憧れの天空の城マチュピチュを訪れた興奮も手伝って、麓で待ち構えている少年団に少なくないチップを渡すことになる。このグッバイ•ボーイたちは麓のアグアス•カリエンテス(温泉)の街の子供たちなのだが、実はこのマチュピチュ観光と温泉でもっているこの街では大人顔負けの稼ぎ手なのだ。
もちろんグッバイボーイたちの足下はNBでもダナーでもなく、オホタで正しく武装されている。ひと仕事終えて、駅前で年長の子供が真摯な顔つきで弟分になにやら語っている風景が見られる。次世代にベアフットランニングの極意でも伝授しているのだろうか。