「もしあなたの息子が軍に入隊するのなら、
どんなフォールディングナイフを持たせますか?」
エンデューロやデリカなど数々の名モデルを送り出し、サムホールやセレーション、ポケットクリップなど、現代ナイフのかたちを作り出したスパイダルコ。そのオーナーであるサル•グレッサー氏にそんな質問をした人がいた。そしてスパイダルコが出した答えがこのSpyderco Militaryだ。
覚悟はしていたけれど、箱を開けてまずその大きさに驚いた。ブレードだけで4in、開いたら9.5inにもなる。僕の手は比較的大きめだけど、メカニックスをはめてもまだハンドルが余る。しかしバランスが良く、大きさを活かして余裕をもってどのようにもグリップできる。巨大なブレードながらワンハンドオープンができ、開閉はスムースで速い。EDCとしてのコンパクトさではなく、過酷な環境で確実にサーブする大きさとバランスを追求しているのだろう。EDCにはふたまわり小さい3inブレードのPara-Militaryが用意されている。
ディテールにも妥協はない。変形クリップポイントの4mm厚のブレードはもちろんS30v、技術精度の問われるフルフラットグラインド。サムホールは直径14mmで、手袋をはめたままでも片手で扱える。大きく張り出したダルコらしいタングとライナーロックに施されたジンピングは確実にグリップする。G10ハンドルにも滑り止めに細かいチェッカリングが施されている。インナーフレームは最低限に絞られスペーサーも一部のみ、ライナーロックはハンドル板に埋め込まれており、見た目よりも薄く、軽量4.2ozに仕上がっている。MilitaryはMade in USA、おなじみ Golden, Colorado U.S.A. Earth の文字が誇らしげに刻まれている。
これはクリスマスに贈ってもらったもので、限定バージョンの華やかなオレンジモデルを選んだ。なにしろオリジナルのブラックモデルはハンドルは黒、ブレードも戦闘中目立たないようにつや消し黒にコーティングされていて、そしてこの大きさとなると見るからに戦闘用なんだ。いくらフィールドでも持ち歩くのはどうかという雰囲気だ。同じG10でもオレンジ色なら、レスキューナイフかフィッシングナイフといった佇まいで、禍々しさも消える。いずれにしてもこの大きさでは日本国内では使えないけど、アンデスの現場でならいろいろと活躍してくれるだろう。
ローンウルフのロングホーン
プロフェッショナルソルジャーを無くしてしまった調査旅行の帰りボストンに立ち寄った際、馴染みのナイフショップで手に入れたのがこのローンウルフ•ロングホーン。PSをもう一本買い求めるつもりでいたのだが、実はこのナイフは以前海兵隊の友人がすすめてくれたもののひとつで、気になっていたのだ。S30vブレードのわりには比較的気安い価格でもあったこともあり、PSは次の楽しみに取っておくことにした。
ローンウルフはガーバー社の元副社長らがおこしたメーカーで、値段の割にハイクオリティなセミカスタムナイフを作ってきた。著名なナイフデザイナーとのコラボモデルも多く、とくにクリスリーヴPSやグリーンベレーも手がけたビル•ハーシー氏によるTシリーズがよく知られている(youtubeのナイフレビューで有名なnutnfancy氏もT2を取り上げ、”万能タクティカルフォールダーとして最高の選択だ”と絶賛している)。
ロングホーンは同型のブラックフットとともに2009年に出されたタクティカルフォールダーで、変形クリップポイントのブレードとテイルの絞られたハンドルが特徴的なモデルだ。CPM-S30vを奢った3.5inのブレードは、サムスタッドで片手でスムースに開閉できる。G10ハンドルにはチェッカリングが施されていて確実なグリップ。ライナーロックとタングの滑り止めも十分。ポケットクリップももちろん装備してあり、左右入れ替えることができる。必要なポイントをきっちりと抑えてあり、さらにMade in USAなのはコレクターにも嬉しいこだわりだが、よくこの値段で出したものだと感心してしまう。5.5ozは重めだが、もともとフィールド装備と思って気にしないことにしている。ちなみにブラックフットは一回り小さい3inブレード、チタニウムナイトライドコートによるつや消し黒の戦闘的なモデルで、こちらは同年のブレードショウではナイフオブザイヤーを受賞している。より軽量だしEDCにはブラックフットのほうが向いているかもしれない。
その後ローンウルフはベンチメイドに吸収され、同モデルもSwaleと名前を変えて、ハンドルはスタビライズドウッドに、ブレードはN680へと変更されている。大手に吸収されたのは残念だ、と言いそうになるけど、ここはベンチメイドだけに今後の展開が楽しみだ。
ナイフ盗難
以前紹介したクリスリーヴのプロフェッショナルソルジャーは、悲しい事に今手元にない。EDCに現場作業に、長く使って行けると思っていたのだけど、フィールドデビューしてすぐに盗まれてしまった。ペルーの砂漠を走るバスの中で、高校生の頃から使っていたオピネルや誕生日に貰ったドンケF2とともに、煙のように消えてしまった。今頃は南海岸のぶどう畑で農作業に使われているのか、プーノあたりでバックパッカーに引き継がれたのか…
いったい何年バックパック担いでほっつきあるいてんだと己の未熟に反省しきり。15年以上、何度も旅にでたり調査に参加して、注意喚起の必要なエリアもけっこううろついていたのだけど、このテのトラブルは意外と少ない。これで3回目かな。実はやられるのはいつも同行者がいる時。ひとりで動いているときはかなり注意深くなり、常に外部に気を配っているのでやられたことはない。連れがいるときにはお互いが見張ってくれている、と思って油断してしまうもので、注意力警戒心が散漫になってしまう瞬間が多いのだ。そんなことは分かっていたはずのに…
長く使って行ける期待が大きかっただけにとてもとても残念だ。クリスリーヴにはセベンツァなど惹かれるモデルも多いが、いつかもう一度プロフェッショナルソルジャーを手に入れてみたい。
トムソン

前回米伊ミスマッチなイメージと書いたけどカンパのパーツに混ざってなんとなく居心地の悪そうなのがトムソンのステムとピラーかもしれない。ピストやMTB乗りには超定番、高性能高精度のすばらしいモノだけど、ロード乗りで使っているひとはあまり見かけないかな(レースではたまに見る)。
ボーイングの飛行機パーツを作っている会社が趣味(?)で作っている自転車パーツで、ピラーの楕円内径や削り出しのヤグラ、ステムの曲線も、ディテールにはあきれるくらいにこだわっている。緊張感のあるアルミ切削のラインには、なんだかエンジニアの執念のようなものが感じられて、カーボンやらチタンやらの素材云々よりも有無を言わせぬ説得力がある。折り曲げたセットバックは強引すぎて笑ってしまうけど。
以前VIVALOのピストを組む際に、トムソンにするかミケにするかで悩んだのだけど、美麗なクロモリフレームにはミケのSuper Typeをのせたことを思い出した。とくにピスト乗りのテイストを出そうとしたわけでもないけど、アメリカの職人技をウリにしていた時代のCAAD5には、トムソンはよく似合うかと。
Cannondale CAAD5
長い間壁にぶら下がっていたCannondale CAAD5をようやく組み上げた。FELTを手放して中古で手に入れたフレームだったけど、なかなかパーツが集らず、結局フレームのままボストンから日本へ運ばれてくるはめになったものだ。リスがどんぐりを溜め込むように少しずつパーツを集めている間にCAADは10にまで進化してしまったけど、意地でも乗り続けることになりそうだ。なにしろ5年も壁にぶら下がった赤いフレームを見上げて完成を妄想していたのだから。
CAAD5というと2000年のジロ•デ•イタリアから投入されたフレームで、Canno伝統の大口径アルミフレームにアワーグラスシートステイ、OSスライスフォーク、さらにこのモデルからはインテグラルヘッドとなった。まあスペックよりもチームSaecoのチッポリーニの勇姿を先ず思い出すモデルだ。その後も、07年までエントリーモデルとして生産が続いていたというからその基本能力の高さが伺える。カーボン全盛の今となっては少々クラシック趣味な感は少々あるのだけど、クロモリの頃からロードに乗っている僕にはホリゾンタルはむしろ好みだし、ノーマルBBの他はとくに現代の規格と互換性に問題はない。なによりドレルグループに入る前の、パイプから組み上げまで完全にHand made in USA 時代のCannoであることはファンとしては嬉しいところだ。
ようやく組み上がったのは以下の構成。ほとんどが中古パーツで、5年かけてじっくり集めたものを組み上げたものだ。赤いフレームに映えるシルバーアルミのVeloceがメインで、シフターとブレーキだけはちょっとだけ上のラインから選んでいる。シルバーのVentoはなかなか見つからず、手にいれるのには手こずったな。気がつけばフルカンパだけど、ハイエンドでもないし、最新最軽量にもカーボンにもこだわってはいない(そもそも181cm&メイオペサード級の僕がン十グラムにこだわっても滑稽だ。重量はパワーで相殺しよう)。合理的なアメリカンレーサーにはシマノが似合いそうなものだけど、CAAD5とSaeco米伊ミスマッチな物語のイメージがあるフレームなので、そんなミスマッチを楽しんでみようかという選択。
フレーム:Cannondale CAAD5 (R800US’03モデルより)
フォーク:Cannondale Slice Ultra Carbon
ヘッドセット:Centaur
ホイール:Vento G3
シフター:Chorus 10s
BB, FD, RD, チェーン:Veloce 10s
カセット:Veloce 10s 12-25
クランクセット:Veloce 52-40
FxRブレーキ:Athena (スケルトン)
ケーブル類:Jagwire L3
ステム:Thomson Elite X2
ポスト:Thomson Elite Setback
ハンドル:Deda Speciale
ペダル:Look Keo Sprint
サドル:未定(物色中。間に合わせで古いVETTA移植)
久米繊維の無地Tシャツ
シンプルな服が好きなので、ベースレイヤーは白か黒無地のTシャツであることが多い。砂漠やらジャングルやら、環境によって長袖になったりキャプリーンやらヒートギアやら特殊なものに変わったりもするが、まあ見た目には変わらない。日本にいるときは普通の綿のTシャツだ。無地の綿のTシャツならなんでも良さそうなものだけど、シンプルなだけに素材やら縫製やら微妙な違いで選ぶのが楽しくなってくる。SunspelやらAnvilやら無印やら、いろいろと試している。
久米繊維は1935年の創業以来Tシャツを作り続けてきた会社で、日本の職人のモノ作りにこだわった商品展開は最近いろいろなところで紹介されているようだ。こういったカタログスペックや効率だけではない品質や伝統といったプラスαを前面に出したブランディングは、新興国の生産力との競争に関わらない戦略として最近増えてきたかな。知らなかった良い日本のモノに巡り会える機会が増えてきてありがたい。ともあれ、そのこだわりのTシャツを着てみたくなった。
手に入れたのは話題の久米繊維謹製丸首ではなく(少々思い切りのいる値段だ…)、昔からある”SAY YOUNG”と、”楽”ロングT。SYはワーク/フィットネスウェアとして作られた伸縮性のあるタイトフィットなもの。胸囲ギリギリのXLを選んだが、タイト過ぎずもたつくところもなく、ちょうどよいバランス。胸囲に合わせたので袖が少し長いが、まあこれは仕方ない。タグが無いので首筋に違和感が無いのがうれしい。身体の線がきっちりでてしまうので、腹回りはたるませられないから、もう柔術の練習はサボれないな。”楽”はルーズフィットなのでLサイズを選んだ。かなり頑丈なつくりだけど、襟周りのステッチがすっきりしているので野暮ったくない。さて、何回か着込んでみて、どういう味がでてくるか楽しみだ。
サコッシュ
前回紹介したサコッシュというものには少し思い入れがある。自転車乗りには馴染みのあるものだけど、最近は自転車用だけでなくハイク用サコッシュというモノを見かけるようになった。先日立ち寄ったU.L.(ウルトラライト)系のアウトドアショップで見かけて、自分も似たような袋を工夫して旅していたことを思い出した。サコッシュは特別なかたちをしているわけでもないただ肩ひものついた袋だから、似たような商品はいくらでもありそうなのだが、アウトドアギアとしては商品化されたものはあまり無かったように思う。少なくとも僕がバックパックを背負って南米をほっつき歩いていた90年代には、商品として見た記憶はない。
パッカー達はその名の通りバックパックを使うひとが多く、僕もノースフェイスの80Lほどのモデルを愛用していた。しかしバックパックはもともとマウンテニアリングの道具として設計されたモノであって、貧乏旅行用に作られたものではない。旅の目的にもよるが、トレイルに出るときは最高だが、ヒッチハイクやローカルバスで街からまちへ移動するような旅では、不便に感じることもある。とくに困ったのが小物の管理だった。マウンテニアリング用につくり込まれているモデルだと、カメラや財布、ロンプラなどをちょくちょくひっぱり出すことなど想定していない。ヘッドコンパートメントから小物を取り出すためにはザックを降ろさなきゃいけないが、それだけで一苦労だ。またバスターミナルで荷物を預けるときには貴重品をデイパックに移し替えてバスに乗り込むのだけど、旅人を狙う連中であふれているターミナルで荷物を開けて持ち物を晒すのはすすんでカモになるようなものだ。
僕はバックパックと併用して、小物入れのサブバッグを首からぶら下げていた。ユースで出会うパッカーたちも似たようなスタイルで、それぞれにサブバッグを工夫していた。それは旅先で手に入れた民芸品の袋だったり、メルカドで拾ったとうもろこしの袋だったり、仕分け用の防水袋に紐を縫いつけたような自作の袋だったりした。僕はラパスでみつけたアンティーク布地の袋を愛用していた。ペルーのクスコからプーノ、ボリビアのラパスにかけてどこでも売っていた定番の土産袋で、この辺りをうろついていた旅人の首にはよくこの袋がぶら下がっていたかな。ちょうどサコッシュのようなカタチのただの布袋だが、シンプルなだけにどのような使い方もできた。街をぶらつくときにはこのバッグひとつででかけていた。
とても便利だったがやはりただの布袋である。防水性もないし重い。こういうシンプルなバッグを山用の軽量撥水の素材で作ったものはないものかと探してみたのだが、意外と手に入らなかった。ただのナイロンバッグならいくらでもあるが、特殊な素材でとなると扱っているメーカーも限られている。そしてグレゴリーもアークも最新の素材で高性能なデイパックを作っている。でもそれらは使用コンテクストを想定してきっちり開発されているモノであって、首からぶらさげるようなテキトウな使い方はできないのだ。ここでまた、山用の道具をパッカーが気楽に使うことの矛盾が生じてくるのだ。まあ当然なはなしで、かれらはマウンテニアリングの道具を作っているのであって、パッカーがロンプラとブリトーとデジカメを首から下げるためのバッグをつくっているわけじゃない。
最近になって、ハイカーズデポや山と道といったU.L.系のショップからこのテのサコッシュがいくつか出て来ているようだ。たしかにベースウェイトを1gでも減らしたいULハイカーなら、重いサブパックは避けたいところだろう。バックパックのハーネスと干渉しない軽量シンプルなサブバッグの型を、自転車のサコッシュにもとめたのはなるほどと思わせられた。また、特定の仕様状況を想定したバックではなく汎用性の高いシンプルなサコッシュが選ばれたのは、ハードなマウンテニアリングに限らず、いろいろなスタイル、自然の楽しみ方を許容するU.L.系ならではの発想かもしれない。そして商品化までしてしまおうといういうのは、個人のガレージショップが多いUL系のフットワークの軽さだろうか。
自分が旅していた頃、あるといいなあ、と思っていたモノを見つけて嬉しくなった。80Lのバックパックを背負って旅することはなくなったけど、調査でフィールドを歩くときにも使えそうだし、普段使いにも便利そうだ。前回手に入れたCCPのサコッシュは自転車用のものだけど、U.L.ハイク系のデザイナー達が出した答えはどのようなモノなのか、近く実物を試してみたいと思っている。
手ぶら+CCPのサコッシュ
ちょいとカフェに、とか一杯飲みに、といったとき、できれば手ぶらで出かけたい。カードとID、札数枚をBREEのカードケースに入れてポケットに突っ込んで…と、いきたいところだが、実際は少し難しい。ひとりのときはなにか読むモノがないと落ち着かない性質なので必ず本を持ち歩いているし、moleskin、iPhone、GRD、LEDライトといったEDCもある。TADのソフトシェルならポケットに全て納められるが、フィールドならともかく日本の街中で毎日着るものでもないし、夏には着ない。鞄を持ち出すほどでもないがポケットに入りきらない、ということになる。たいてい一澤帆布のポーチをぶら下げていくのだが、そしてとても気に入っている鞄なのだが、もう一段階手ぶらに近づきたいこともあるのだ。で、最近見つけたのがこのサコッシュである。
サコッシュというと、自転車乗りにはおなじみの補給食を入れる肩掛けの簡易鞄。ツール•ド•フランスなどのレース中継でも、選手たちがサポートからサコッシュを受け取るシーンを見ることができる。ちなみに中身はパワーバーのようなストイックなものだけでなく、がっつりブリトーが入っていることもあるそうな。ようはお弁当袋なわけだが、贔屓チームのロゴの入ったサコッシュを普段使いにしているチャリダーもいる。
このCCPのライクラサコッシュは伸縮素材で作られていて、たすきがけでも腰巻きでもどのように持っても荷物が身体に密着していくれる。かなり伸びるので、意外なほど荷物をたくさん飲み込んでくれる。あくまでサコッシュなので開口部はオープンだが、担いでしまえばその伸縮性のおかげで密着して口は閉じるし、リングに鍵などをぶら下げておけばフックになる。ひもをリングに通せば開口部を完全に閉じることもできる。単純なようで素材を生かす型をよく考えて作られているのだ。
写真はmoleskinとGRD、文庫本一冊を放り込んだところ。たすきに担いでみたり、腰に巻き付けてみたが、ぴたりと身体に密着してくれる。大きめのポケットがひとつ増える感覚だ。手ぶら以上鞄未満といったところか。もちろん自転車に乗るときも使える。簡素な作りだが、値段もブリトー2,3本分ほどの気安さである。
井戸多美男作
何かモノを手に入れる必要があるとき、直接店に行き予算と相談しながら選ぶというひともいるし、前もってリサーチしてから手に入れるひともいる。僕は後者のほうで、その場で選ぶとか衝動買いというのはめったにない。それどころかヒマさえあればモノリサーチをしてアタマの中の欲しいモノリストを更新しているので、何かモノが必要になったときはたいてい候補は決まっている。(必要なものとリストの予算の折り合いがつかないと見送ることになる。だからこの15年間、僕の机の上にはデスクライトがない。)
さて、この眼鏡は僕にとってはとてもめずらしく衝動買いしたもの。ひどい近眼というわけではなく運転など必要なときだけかける程度なのだが、調査現場の過酷な環境でも使うのでよく壊してしまう。先日もペルー調査のときに壊してしまったのだが、次に手に入れるときにはとにかく頑丈なモノにしてやろう思っていた。狙っていたのはオークリーのジュリエット。こいつにレンズを入れてやれば、どうやっても壊れない、頑丈な一物になるだろう。なにしろイチローがフィールドで使っているんだからね。そこで、三ノ宮のオークレーを扱っている店にいきレンズ交換の見積もりまで出してもらっていたのだが、見積もりを待っている間に、展示されている眼鏡にふと目がとまった。ジュリエットとは似ても似つかない、砂漠でなんかとても使えない、とても繊細な眼鏡に一目惚れしてしまった。
井戸多美男氏は鯖江をベースに活躍されている眼鏡職人だ。鯖江の職人技というと手磨きのセルフレームが頭に浮かぶが、井戸氏はメタルフレームの第一人者である(セルも扱っておられる)。最近では使われることが少なくなったサンプラチナを用いて、徹底的に完成度の高い眼鏡を作ることで知られている。日本で開発されたサンプラチナは耐食性にすぐれ、かつ人体に優しい素材だが、フレームに加工するには複雑な行程と熟練の技が必要になるそうだ。井戸氏は現在では失われつつあるその作業行程の全てを一人でこなすのだという。伝統的なディテールや型、流麗なカーブと柔らかい輝きながら、なにか切れるような緊張感を感じるのは井戸氏の技によるものか。シリコンを塗布しただけの、一山のブリッジと絶妙に巻き上げたテンプルのエンドには、ほれぼれする。もちろんかけ心地も素晴らしい。
ただこの緊張感はどんなファッションにも似合う、というモノでもない。眼鏡に負けないくらいの緊張感をもってスーツを纏った時には良いが、Tadgearの砂漠戦用ジャケットにはもちろん似合わない。といって20世紀初頭の考古学者やレイダースのベロック博士じゃあるまいし、白麻のスーツにボルサリーノで現場にでるわけにはいかない(いつかやってみたいけど)。さて井戸氏がフィールド用眼鏡を作るとどうなるんだろう。できれば訪ねて行って、僕に似合う作品を見立てて頂きたいところだが…。
マインドマップ
前回に引き続き、セルフマネジメント関連から最近気に入っているもの。正確にはマネジメントの道具ではないのだが、生活仕事いろいろな場面で使えるので、ここで紹介しておきたい。Mindmeister というウェブベースのマインドマップである。
マインドマッピングは考えていることを視覚化する方法のひとつ。古くからあるKJ法やら京大カードといった外部情報の整理技術ではなく、もっともっとプライベートな作業だ。ヒトのアタマの中は、必ずしも言語化されているわけでも論理的に整理されているわけでもなく、様々な情報の断片が手前勝手な論理で複雑に絡み合っている。それを整理してアウトプットするとなると、かなり骨の折れる翻訳作業になるものだ。そこで、アイデアや関連情報をどんどん書き出して、ダイアグラム化していくのだ。アイデアは視覚化され、客観的に眺められるようになり、論理的に整理することが容易になる。さらに外部情報も加えていって、発展させて行くこともできる。企画戦略といった仕事のシーンはもちろん、目標達成のためのセルフマネジメントにも使える。
最近では関連書籍が多く出版されているし勉強会も行われているようだが、誰だって自分なりに編み出した手法はあるものかもしれない。僕も以前は自己流の手描きでやっていた。学校でスタジオ課題に向かうときなど、建築学生ならきっとバッグの中に入っているトレーシング•ペーパーのロールを机の上に広げて、ひたすら頭に浮かんでくるアイデアやスケッチを書き散らかしていった。例えば小学校を設計する課題なら、左端に○○小学校と置き、右側へユーザーグループ、サイトコンテクスト、先攻研究、技術、予算、法規といった基本要素を配し、どんどん分岐させ連結させ拡大させて行く。ロールペーパーなので必要なだけ転がしていけばいい。出来たダイアグラムからゴールやコンセプトといった基礎プログラムを導きだし、企画書をつくる。必要なリサーチや作るべき図面、模型の数や種類といったToDoを導きし、作業を開始する。
マインドマップを作成するアプリを利用すると、アナログな自己流よりも作業はずっと効率的になる。マップの改造も容易だし、文章だけでなく絵や図なども扱える。過去のマップデータの保存が効く。すでにいろいろなアプリが出ているが、定番になっているのはFree Mindだろう。その他、MindomoやXmind、MindMapperなど、FOSSから有料のもの、絵が書きやすいものや、グループ共有がしやすいものなど様々あるので、自分の使い方や感性にあったものを見つけるのは難しくない。
MindMeisterはドイツで開発された、クラウドのマインドマッピングとブレインストーミングのソフトだ。マップ作成機能も十分強力で、様々なインポート/エクスポートに対応する(バージョンによる)。ウェブベースなので、出先でもどこでも思いついたときにマッピングができ、チームで利用できるので、メンバーと共有してどんどん書き込んでいける。無料だが制限のあるBasicバージョンから、有料だが強力なBusinessバージョンまで4種類ある。
使い始めたばかりだが、試しに目先の仕事や、WunderlistやiCalと合わせてセルフマネジメントツールのひとつとして使ってみているが、使い勝手はよい。ただ常にネット環境が必要になるので、ローカルでFree Mindと併用すべきか考えているところだ。